173「素晴らしき哉、春の夜」

3.31.wed./2010

ご無沙汰でした。
墨丸会員占い師ローセン女史による、我輩「2月から運気上昇!」のはずが悩み事、絶えずして・・・で、前記3月8日以降の主な出来事をまとめて以下・・・

★宴会

21日の日曜は、恒例「墨丸版 史上最大の作戦」の日。
19時から21時59分までの、飲み放題の夜。かつこの日は作戦終了後「墨丸マスター慰労会」が?
※この作戦については「開催数多すぎて、ありがたみ薄れてるで」とのご意見もあり、次回より新コースも加えての春夏秋冬年4回実施に改定。

で、「慰労会?」とО型タイプの我輩。
・・・2月の「呪いの北東事件」で落ち込んだ我輩慰めてくれる会でした。
落ち込んだのは我輩だけじゃなかったはずなのに。嬉しいことです。
でも、喉もと過ぎればなんとやらのこれまたО型、とっくの昔に嫌なことなど忘れてしまってて・・・というより、新たな悩み続発で。

でも、墨丸会員388号ちかねぇ&734号チャンさん共同主催で、我輩希望した(させてくれた)「モツ鍋」での慰労会に当夜参加。
我輩の仕事にあわせ夜中からの開催で、22時半にお客さん途切れたのを幸いに早々と店をクローズ。会場のちかねぇ宅に。

少人数で「じっくり飲も!」のはずが、62号高野山の怪物、284号かよちゃん、462号やすべぇ嬢、541号しゃべってらクン、608号ヨッシー嬢、691号ポストマン、742号ろんたいクン、806号直助嬢、非会員松村センセの計12名での宴会に。
酒は各自持ち込み。
私は缶ビール半ダースと角瓶持参。チャンさんは久保田の千寿と万寿。これは日本酒の銘酒。

★久保田

この久保田持参には訳がある。
「その店、日本酒が特にうまいねん」との我輩の弁で、しゃべってらクンが初めて赴いた堺・浅香山の焼鳥屋「こんぺい」。その現地から「焼き鳥も酒もうまいです!」とわざわざメールしてきてくれたことに触発されての18日の木曜日、チャンさん、松村センセ、495号マサミ嬢、705号タムリン・トミタ嬢ら初訪問者と我輩10年ぶりくらいにその「こんぺい」へ。

その店の日本酒は新潟の「緑川」と「久保田」銘柄のみ(ただし各全種類あり)。我輩はこの店の、すりガラスのグラスで飲む久保田の千寿のみがお気に入り。これがなぜか他の店では味わえぬ旨さ。
無口きわまりない大将に、「特別な管理してはるんですか?」と問えども、「別に・・・」
この対応が難で、店を紹介してくれた某氏も「愛想悪いでぇ〜」
この日も、先に着いていたチャン氏、メールで「早く来てください!」と救援求めてくるほど。
が昔、数回通っての年末など、「これ、どうぞ」と酒粕なんぞをプレゼントしてくれたりもする。

この店の千寿は健康のバロメーターのようなもの。
で、「今夜はちょっと味が・・・」と感じる夜は必ず体調不良であったりもする。
で、チャンさん「慰労会にボクなに持って行きましょ・・・マスターはなに飲みたいですか」ってんで、「チャンさん、こんぺいのと飲み比べしてみたらどう」と市販の「千寿」を薦めたわけ。

我輩の転宅の関係で10年ぶりに訪れた「こんぺい」については、10年ぶりの愛想なし対面だったゆえ顛末はもう書きたくないけれど(当日寝不足で、酒の旨さはこれまた味わえず)、チャンさん慰労会でいわく「こんぺいの方が旨いですねぇ〜」

さて慰労会の夜、我輩いつしか寝ちまい、夢うつつに隣室でまだ飲み続けてる仲間のざわめきが、幼少のころ高野山の祖父宅で、大人たちが別室で夜遅くまで飲み楽しそうに喋ってるあの夢うつつの雰囲気を懐かしく思い出させてくれてもいた・・・。

そういう意味でも、前記「呪いの北東事件」そしての「こんぺい」と、消化不良に終わった飲み会を忘れさせてくれた、まさにこれは今回良き「慰労会」
河内長野から通ってくれてる松村センセ、「千寿はマスター専用で飲んでください」と勧めてくれたチャンさん、宴会係として働きっぱなしだったちかねぇ、「好きやったのに〜」と終始からんでくれたかよちゃん、みなさん、ありがとね〜!
・・・愛すべき高野山の怪物よ、てめえだけはあいかわらず訳のわからんこと朝方わめいとったなぁ!ま、許す。

★「今夜の本!」

話は変わって、これを読んで彼女の作品一休み、と決めての篠田節子の大作「弥勒」(講談社文庫)読了。

う〜ん、すごい。すごい力量。
今回は前作「聖域」「ゴサインタン」につづく神の領域を扱った作品。
地勢的にも資源的にも他国から侵略されることなく独自の文化を育んだ、ヒマラヤ奥地の知られざる小国パスキム。
その地の仏教美術に魅入られていた新聞社社員の主人公は、パスキムが政変で鎖国状態となったと知り、仏教美術品存亡を危惧して単身パスキムに潜入。
なぜか無人と化し、あらゆる美術品類が破棄された首都で彼はパスキム王さえ目にすることのできなかったという秘宝弥勒像を偶然発見するが・・・。

要するに、かつてのカンボジア、ポル・ポト政権下の原始生活キャンプに外国人が放り込まれたら・・・というような話。
が、解説で「架空の王国を細部まで設定し、そこで起きる殺戮と荒廃の凄惨さをかくも臨場豊かに描き得たのは並々ならぬ想像力と尋常の域を超えた筆力」なのですわ。
桃源郷と思われていた王国で主人公の価値観が二転三転と覆されてゆくさまも読ませる。ただ、ポル・ポト崩壊後に相次いで出版されたノンフィクションの数々に接してショックを受けた経験上、「殺戮の凄惨さ」はちとおおげさかと。評価4/5。

「死神」(篠田節子。文春文庫)
市の福祉事務所に勤めるケースワーカー達が主人公の連作小説。
主人公達がさまざまな「弱者」と接するドラマチックな展開に「この世界のこと詳しいなぁ」と感嘆してたら、作者の前職がそうだった・・・4/5。

「愛逢い月」(篠田節子。集英社文庫)
恋愛に潜む「怖さ」を描いた短編集。なかでも「38階の黄泉の国」が秀逸。
かつて、ホテルの一室で「時が止まってしまえばいい」とまで愛し合っていた不倫カップル。死後、黄泉の国のそのホテルの一室で再会。そこでは願い通りまさに時が止まっていたのはいいのだけれど、次第に男に対し女は「黄色っぽい乱ぐい歯が、唇の間から飛び出した」ような男の欠点ばかりが目につき始め・・・。
う〜ん、四六時中一緒だと我輩の好きな仲間サンや麻生サンとでも(女優です)こうなるんやろか、と妙に納得の、4/5。
我輩、短編集よりも大長編派。が、篠田さんの短編はどれも平均以上の作品ばかりで、おすすめ。

「第4の神話」(篠田節子。角川文庫)
「私の作品は5年しかもたない」との言葉を残して病死した美貌の女性ベストセラー作家の評伝を書くことになった女性ライター。作家の本当の姿を抉り出していくという著者お得意のテーマなれど、以前紹介した女流画家の生涯を探る「神鳥」などにくらべ特異性に劣り、3/5。

「パレード」(吉田修一。幻冬社文庫)
現在上映中の映画原作本。
若き男女4人がマンションの一室で暮らしている場面から始まるこの小説、読み始めて(裏表紙のあらすじ目を通さず)「こんなのの映画なんてみたいかぁ?」と、単なる青春小説と思いつつ読んでると、なかなかどうしての展開。で、最後の数ページで「な、なんや!」
単なる青春ドラマではなかった。再読したくも、映画もみたくなっての、4/5。

「世にも恐ろしい船の話」(大内健二。光人社NF文庫)
「海洋奇談集」(ロベール・ド・ラ・クロワ。知恵の森文庫)
ともに世界の海難事故をとりあげたノンフィクション。「船底一枚下は地獄」を実感。
特に16世紀の「帆船バタヴィア号の惨劇」は、草木も生えぬ岩礁に漂着した船員、乗客らが、遭難前に発覚した反乱計画の口封じのため100名が惨殺される。世界の海難史のなかでも最も悲劇的かつ凄惨といわれるこの事件、詳細知りたし。かつ映画化されれば(されてるかも)ドラマチックだろうな!の感。
ほかに、子供の頃夢中になった「魔のサルガッソー海」や「バーミューダ・トライアングルの謎」がまったくのホラ話だったとか、無人船マリーセレステ号の謎はいまだ未解決とか(現在、単なる都市伝説と判明)、サバの押し寿司「バッテラ」名が帆船時代のボート(ポルトガル語でバッテーラ)の丸みを帯びたズングリしたスタイルからの由来とか、はじめて知るお話満載で、4/5。

★「今夜の名言!」

「アメリカの真実は本で知る。ロシアの真実は雪の中だ。科学者や聖職者や詩人が雪の下に眠っている。シベリヤには他に何も埋まっていない」
 イギリス・ドイツ・スペイン・リトアニア合作映画「暴走特急 シべりアン・エクスプレス」より。

営業終了後、あいかわらず録画映画見まくっても、なんと心に残る作品の少ないことか。
上記は、シベリヤ特急で旅行中のアメリカ人夫婦が麻薬の運び屋男女と親しくなったおかげで、ロシアン・マフィアに狙われるという物語。
言葉も通じぬ異国。賄賂と暴力の権化のようなロシア警官。そして列車内という密室で繰り広げられるサスペンス劇は、ダサい題名の割りには拾い物。

今月のwowow「名作日本映画」は、新藤兼人監督特集。
ビキニ環礁の水爆実験で死の灰を浴びた漁船の悲劇を描いた「第5福竜丸」、男女4人の乗った難破船の極限状況を描いた「人間」(こんなの好き)、女性教師が原爆被害にあったかつての教え子を訪ね歩く「原爆の子」、連続ピストル射殺事件の永山則夫の青春を描いた「裸の19才」と、50年代中心のモノクロながら力作揃い。

なかでも「狼」が秀逸。
戦後の不況下、ようやく保険外交員の職を得たものの、使い捨てのような職場環境で(現在なら保険会社のこんな実態描けんやろ)、契約もとれず追い詰められた男女5人が現金輸送車強奪を計画。彼らの極貧生活と素人犯罪による計画の破綻を人ごとながら(いや、人ごとではないかもで)切実な思いで見入ってしまった。
先月は「松本清張作品特集」だったが、こうした50〜60年代邦画が秀作ぞろいなのには今更ながら感服した次第。

「素晴らしき哉、春の夜」完

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