347「今夜!」1/2017のベストは?

2.1.wed./2017

ガジュ丸評価基準。
5〜4が「秀作以上ライン」(5は「ぜひ!」的作品)、3.5は「損ナシの佳作」、3は「普通」、2〜1は「駄作ライン」
NF=ノンフィクション ※=再読or再観作品

★「今夜の本!」

01.「バベル九朔」万城目学/角川書店/1.0
02.「修羅の終わり」貫井徳郎/講談社文庫/3.0
03.「崩れる 結婚にまつわる八つの風景」貫井徳郎/角川文庫/3.5
04.「後悔と真実の色」貫井徳郎/幻冬舎文庫/3.5 [山本周五郎賞]
05.「戦場の軍法会議 日本兵はなぜ処刑されたか」北博昭/新潮文庫/3.5 NF
06.「桶川ストーカー殺人事件 遺言」清水潔/新潮文庫/5.0 NF [jcj大賞]etc
07.「新月譚」貫井徳郎/文春文庫/4.0
08.「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」清水潔/新潮文庫/5.0 NF [新潮ドキュメント賞]etc
09.「晴天の迷いクジラ」窪 美澄/新潮文庫/4.0 [山田風太郎賞] ※
10.「この闇と光」服部まゆみ/角川文庫/3.5
11.「天上の露」白石一郎/光文社時代小説文庫/3.5
12.「仮面同窓会」雫井脩介/幻冬舎文庫/3.5
13.「その街の今は」柴崎友香/新潮文庫/3.0 [織田作之助賞]etc

☆今年初の「!」

清水潔氏の新作ノンフィクション「南京事件を調査せよ」読みたく、その前に著者の旧作読んでしまおうと、まず「桶川ストーカー殺人事件 遺言」を書棚から取り出した。1999年10月、埼玉県のJR桶川駅前で21歳の女子大生が何者かに刺殺された事件の真相を暴いたノンフィクション。

「被害者に男を見る目が・・・」「ストーカーされる要因が・・・」と、被害者が風俗嬢、ブランド好き云々との当時の報道もあって、失礼ながらそうしたイメージ先行。悪く言えば少々キワモノ的な作品かと長年ほったらかしにしてしまっていた本書。
が、そう思わせたのが「犯人グループ」の手口によることに加え、警察発表を鵜呑みにした「マスコミ」の偏向報道、そして捜査を担当した「埼玉県警上尾署」がそもそもの・・・という信じられぬような事実が次々と本書であからさまに。さらに、報道人として唯一被害者側に立ち、なんと警察より先んじて犯人をも突き止めたのが、当時の写真週刊誌「FOCUS」記者の著者、清水潔氏。
本書を長年手にしなかったことへの後悔あるものの、時の経過により事件推移の記憶が薄れていてのある意味新鮮な「真実」に対する衝撃度が大きいことも確かで、今年初めての「傑作」第1弾に。

つづいての同著者「殺人犯はそこにいる」では、栃木、群馬の境界線に位置する半径10キロという限定された地域かつ大半がパチンコ店からの、そして5人もの誘拐殺害あるいは行方不明事件にも関わらず、長年個別の未解決事件とされていることに著者は疑問を抱き・・・著者調査の結果、それらがたった一人の男による連続誘拐殺人事件と解明。
さらに、著者によってその男がどのような人物か所在をもふくめすでに特定しているというこれも信じられぬような内容。しかし、いまだ逮捕に至らぬのはなぜか?
とにかく両作品ともにノンフィクションの金字塔かつ警察不信に陥ること必至の傑作。

☆オススメの3冊

山本周五郎賞受賞で期待の貫井徳郎「後悔と真実の色」は、猟奇殺人をめぐる刑事ドラマというだけでもう評価ダウン(猟奇殺人なんてもうウンザリで)。でも犯人の意外性は秀逸。で、貫井作品に接するのもこれで打ち止めかと思ったところに、「新月譚」が。
一世を風靡しながらも若くして突然引退した美貌の女流小説家。数十年後、新人編集者が彼女の告白で意外な真実を知るという、一人の女性の生涯を描いたノン・ミステリー。
現時点の著者作では「慟哭」「乱反射」そしてこの「新月譚」がオススメか。

☆再読でも「!」

山本周五郎賞の「ふがいない僕は空を見た」の窪さん第2作、山田風太郎賞「晴天の迷いクジラ」をいつ読んだのか、ページ開いたとたん「再読本」と気づいた。けれど・・・。
倒産寸前のデザイン会社に勤める青年の失恋と過酷な労働の日々。絵を描くことのみに喜びを感じる少女に訪れた恋そしての出奔。潔癖過ぎる母親のもとで引きこもってしまう少女・・・三人三様の物語が密度の濃い展開で描かれ、冒頭から引き込まれたこの経験は以前にも・・・でも、充分過ぎるほど再読に耐え得る秀作。

☆意外性なら

最後の一行でそれまでの世界が反転してしまった乾くるみの傑作「イニシェーションラブ」ファンならば服部まゆみの、幽閉されている盲目の王女と父王の物語「この闇と光」がオススメ。
「この描写は伏線?」と思わせる数々の箇所で悪く言えばつまづきイライラさせられるけれど、「まさか!」のこれは誰しも予測不可能な世界が待ち受けている。

★「今夜の映画!」

01.「GONIN サーガ」2015/日/石井隆監督/東出昌大主演/4.0
02.「GONIN 2」1996/日/石井隆/余貴美子/2.0
03.「ヌードの夜」1993/日/石井隆/竹中直人/4.0 ※
04.「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」2010/日/石井隆/竹中直人/2.0
05.「ダークスター」1974/米/ジョン・カーペンター/1.0
06.「インフィニ」2014/豪/シェーン・アビス/3.5
07.「サヨナラの代わりに」2014/米/ジョージ・C・ウルフ/ヒラリー・スワンク/3.0
08.「トウルー・ストーリー」2015/米/ルパート・グールド/3.0
09.「イット・フォローズ」2014/米/デイビッド・ロバート・ミッチャム/2.0
10.「ハイエナ」2014/英/ジェラルド・ジョンソン/3.0
11.「ミッシングID」2011/米/ジョン・シングルトン/3.5
12.「心霊ドクターと消された記憶」2015/豪/マイケル・ペトロー二/エイドリアン・ブロディ/3.5
13.「男の出発」1972/米/ディック・リチャーズ/ゲイリー・グライムズ/3.0 ※
14.「虹蛇と眠る女」2015/豪etc/キム・ファラント/ニコール・キッドマン/3.0
15.「ブラックスキャンダル」2015/米/スコット・クーパー/ジョニー・デップ/3.5
16.「リード・マイ・リップス」2001/仏/ジャック・オディアール/3.5
17.「追撃者」2014/米/ジャン・バテイスト・レオネッティ/マイケル・ダグラス/3.5
18.「バーディ」1984/米/アラン・パーカー/ニコラス・ケイジ/3.0 ※
19.「少女は悪魔を待ちわびて」2016/韓/モ・ホンジン/3.5
20.「ザ・ウェーブ」2015/ノルウエー/ローアル・ユートハウグ/3.0
21.「デザート・ストーム」2016/米/アシュリー・エイビス/3.0
22.「ザ・ブリザード」2016/米クレイグ・ギレスビー/3.5
23.「誘拐捜査」2015/中/ディン・シェン/アンディ・ラウ/3.5

☆オススメは「石井隆」

あいかわらず「本!」にくらべて「映画!」は心に残る作品のなんと少ないものか。
今回、評価3.5以上の作品数でみると「本!」ではそれが80%に達するのに、「映画!」は半数にもみたぬ47%どまり・・・。
むかし観た西部劇「男の出発」やベトナム戦争の後遺症テーマの「バーディ」などはいまも充分楽しめる作品。なのに最近作は・・・時間の無駄かとWOWOW視聴やめようかと真剣に考える今日このごろ。

暴力団から大金を強奪した5人の男と彼らを抹殺すべく差し向けられたビートたけし演ずる殺し屋との死闘を描いた石井隆の秀作「GONIN」(1995)の19年後を描いた続編「サーガ」が今回唯一のオススメ作。

石井隆監督の要望で、病身での出演を果たし本作が遺作となった根津甚八、土屋アンナや竹中直人の存在感も秀逸だし、前作の遺児たちが復讐に立つという正統的続編というのも泣かせる。
ただ監督作で女性を主人公にした「GONIN 2」や「黒の天使」シリーズはなぜかの相反する出来の作品ばかりなので観るなら要注意。

ま、先月から一ヶ月まとめてのこの「今夜!」、以前にくらべ時間をおいて冷静に(?)評価できるようになったか、と思ってます。

「今夜!」1/2017 完

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