391「今夜の本!」1/2018のベストは?

2.7.wed/2018

2018年度の連載スタートです。
で今回より、期待しつつ手に取った(または観た)作品の結果は如何に?という「期待作!」欄を新設。如何に我輩の眼力が当てにならぬかがここで判明するわけで・・・。
「今夜の映画!」も内容変更。
作品一覧の監督名等は佳作以上の作品に。
また「年間ベスト作品」も近々発表致しますし、本や映画のことを語り合えるサロン「書庫珈琲 墨丸亭」(ショコカフェ)開店に向け、これも近々実験活動をスタートさせます。本格始動までは「会員制。予約制。宿泊可」にて。ご意見ご要望をお聞かせ下さい。乞うご期待!?

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「凡作」1「駄作」。NF=ノンフィクション ※=再読作品。

01.「怪物島 ヘルアイランド」ジェレミー・ロビンソン/ハヤカワ文庫/1.0
02.「レモン・インセスト」小池真理子/光文社文庫/2.0
03.「二重生活」折原一 新津きよみ/光文社文庫/3.5
04.「蜩ノ記」葉室麟/祥伝社文庫/4.0 [直木賞]
05.「微笑む人」貫井徳郎/実業之日本社文庫/4.0
06.「五郎治殿御始末」浅田次郎/新潮文庫/3.5
07.「星間商事株式会社社史編纂室」三浦しおん/ちくま文庫/3.5

★「原作vs映画」
原作もしくは映像作品、どちらが「優?」

「蜩ノ記」葉室麟 原作◎vs小泉堯史 監督作×
映画版は原作の"雰囲気"なぞっただけの感。登場人物らの生き様が伝わってこずの薄っぺらな駄作。同監督の「雨あがる」もそうだったけれど、小泉監督さんは時代劇に(も)不向き?

★「期待作!」

「二重生活」折原一 新津きよみ共作
航空機のパイロットが眼下の北海道原野にSOSの文字を発見。救助隊が現地に赴くと、木片を並べ作られたそれら文字と共に遭難者の遺品と思われる品々、熊に喰われたと思われる人の骨が散乱していたという事件がかつて報道された。
後年、この特異な事件を小説化したのが作家の折原一(だったと思う)。そんな折原一と妻の同じく推理作家の新津きよみとの共作というので、今回のこの新コーナーで取り上げることとなったのが「二重生活」

看護学校に通う優秀な苦学生の「わたし」が、支援してくれる中年男の若き学生妻となる。が、男のすべてが嘘で塗り固められた二重生活者と知り、女は復讐を誓うが・・・。
この「読者が騙される」小説をどう映像化するのだろうと、これまた「今夜の映画!」版の「期待作」として岸善幸監督「二重生活」を興味津々で観たわけで。おまけに、映像作品もしくは原作のどちらが「優?」の「映画vs原作」欄での作品比較も、「1月はコレだ!」と・・・。

なぁんだけど映画版は、哲学の論文題材のため近所の幸せそうな家庭の主人を尾行し始めた女子大生が知る男の秘密という展開の、これは小池真理子の同名小説が原作という、自分勝手な思い込み。で、「ああ、騙された」(?)という結末に・・・。

小説は、共作でなかった方が?の感。
映画は、女子大生役が満島ひかりでなく門脇麦だったというこれも勘違いだったけれど、会社員役の長谷川博己は当たり役。で、素人尾行のハラハラ感もあり一見の価値ありか。ただ、映画ドラマに出演過多気味のリリー・フランキー演ずる教授のラストの意味合いがよく分からぬ・・・原作読んでみよう。

★「寸評!」

洋上の廃棄物が大量に漂流する太平洋ゴミベルト。その海域で調査船マゼラン号が嵐に遭遇。絶海の孤島に漂着する・・・。
プロローグがベストの映画に、かつての東宝怪奇映画シリーズの「マタンゴ」がある。「怪物島」の冒頭シーンはまさにその異様な「マタンゴ」的雰囲気で期待・・・が、600ページ近い大作のその箇所数ページだけが読むに値、いやいま思うとその数ページの中にも首を傾げる描写はあって、昨年下半期で酷評の、これはまるでその作家、周木律の作風。で、「新年の読書スタートがコレかよ・・・」。評論家の尾之上浩司は「読み逃したら絶対後悔する」と、既存の本や映画のシーンを切り貼りしたような本書を絶賛しているけれど、作家とともにこの批評家もボクの本の世界からもう完全消去。

いま風に言うならば「サクサク」読める本とでも言うんだろうか。「本が増えて家が手狭になったから」という奇妙な理由で妻子を殺害したエリート銀行員は評判通りの「いい人」。主人公はそんな人物がそんな理由で人を殺すことに疑念を抱き、真実は他にあるのではと男の過去を調べ始めると・・・。
「微笑む人」92ページの男の「ひとこと」でよりどっぷりハマってというたるみのない展開で、あっという間に読み終えた一冊。

「五郎治殿御始末」は、江戸から明治へと世の中が変転した時、名もなき武士たちはどう生きたかを6編の物語で綴っている。長編好きで我輩好みでない「短編集」ながら、6人6様のこの時代に生きた人々を知ることができ、堪能。

BL傾向の作風で読んでいると気持ち悪くなってくる三浦しおんの作品だけど(BL小説と知らずに読んだ栗本薫「真夜中の天使」は別格)、「社史編纂」という馴染みのない世界に惹かれての「星間商事株式会社社史編纂室」。同人誌オタクの世界も垣間見れて楽しめるんだけれど、ここでもBLが・・・宝塚ファンもそうだけど、BLのナニが女性を惹きつけるのか。日本人に生まれても女には生まれなくてよかったとあらためて思えた一冊。

★「今夜の名言!」

小説「蜩ノ記」のラスト、慶仙和尚が秋谷に「もはや思い残すことはないか」と問う。秋谷は「もはや、この世に未練はござりませぬ」と答えるが、和尚は「まだ、覚悟が足らぬ」と諭す。

「未練がないと申すは、この世に残る者の心を気遣うてはおらぬと言っておるに等しい。この世をいとおしい、去りとうない、と思うて逝かねば、残された者が行き暮れよう」と。

★「ガジュ丸賞!」

葉室麟の直木賞受賞作「蜩ノ記」だ。
幽閉中の元郡奉行戸田秋谷は前藩主の側室との不義密通の廉で十年後の切腹を命じられている。切腹が三年後に迫ったある日、若き藩士檀野庄三郎が監視役として秋谷のもとに遣わされる。が、生活をともにするうち庄三郎は秋谷の清廉さに無実を信ずるようになり・・・。
一読後、「ああ、日本人に生まれてよかった」とは、良き時代小説を読了後に毎回思うこと。本作の読後感もその一言のみ。外国人には分からぬであろう日本人の美学、ここにありか。

「今夜の本!」1/2018 完

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