403「ガジュ丸の呑酒暦 弥生(ミナミ篇)」gajyumaru no donsyugoyomi(第三話「ミス大阪」)

5.9.wed/2018

「呑酒暦」とは、我輩ガジュ丸の「呑む、読む、観る」三大娯楽キリギリス的人生において、初訪問の呑み屋をめぐる、めくるめく(?)物語、かつその月の特異な出来事の記録であ〜る。
さて三月は・・・(再訪率50%以上がOK店)

★「さかもと」にて

3月も2月に続いて縁者が亡くなった。
それはさておき、その通夜に始まり先の葬儀の骨納め、身内のひな祭りの祝い席と、3月は親類縁者の集まりで酒を呑む席が続いていた。
そんななかでの17日土曜の呑み会は、2月の葬儀と重なり中止となっていた墨丸会員チャン氏たちとの宴席。
待ち合わせ場所は、大阪住吉の我孫子西2-9-16「ちりとりダイニングさかもと」(06-6609-6828/木曜休)。最寄り駅はJR我孫子町駅。

店主の坂本さんとは我孫子南商店街の居酒屋「なじみ」で知り合った。
女将さんお一人で朝方まで切り盛りされてるその店のお馴染みだった坂本さん、当初女将さんと「あの人ナニしてる人やろ?」と、真夜中過ぎに出没の我輩のこと噂していたとか。
まぁ、むかしから我輩、なぜか職業不詳といわれたものだ(世にいう不審人物である)。サラリーマン時代などはホステスに「お仕事は・・・産婦人科の先生!」と判断されたこともある。後刻「独身とのたまうあの子、なんで産婦人科知ってるんや」と、クエッションマーク。

再訪率:80%

★「なじみ」のこと

「なじみ」(住吉区我孫子南商店街。06-6692-0585)は最初、サラリーマン時代からの飲み仲間かつ墨丸古株会員のM氏と訪れた。
が、女将さん開口一番「すみません、今夜はもう終わりなんです」と、やんわり入店断わられ・・・後日、朝方まで開いてると知り一人で行くようになってからその時のこと聞いてみた。
「他にお客おれへんかったからボクら警戒しはったん?」
「・・・(苦笑しつつ意味ありげな沈黙)」
「そりゃそやわね。一緒にいたMちゃんなんか丸坊主で出所したてみたいなガラの悪そうな風体やもん」
「・・・(さらなる苦笑)」
ま、あからさまに答えぬのが女将さんのいいところ。我輩なんか「あんなん連れてくんなやぁ!」と叫び返すことだろう。

でもサラリーマン時代のM氏、もちろん坊主アタマなどではなくキリッとした男前。初めて入ったラウンジなどではまずホステスさんたちは彼の隣の席へ。が、5分後には我輩のもとへというパターン。
その頃から毒舌家でもあったのだ。三つ子の魂百までもでいまだその悪癖変わらず、そこに坊主アタマが悲しいかな加わってしまった。我輩は「ポコチンアタマ」と揶揄してせめて坊主だけは止めさせようとしてるのだが・・・。

そんな「なじみ」は、深夜過ぎると同業の方々が集まってくる。
安くて朝まで営業というのはなかなかこれはないもので、我輩もそこで何人かの同業者と親しくなった。坂本さんともカウンターで隣り合ったのがきっかけで、墨丸忘年会などでお世話にも。そして我輩が2015年夏に病に倒れた後に独立され、「ちりとり」を開店。

再訪率:80%

★「印象に残った」こと

17日の「ちりとり」での印象的な話は、チャン氏と同行のキムラ氏ともに40歳を超えていながらいまだ独身かつ「彼女」もいず、いないことに焦ってもいない。そのことの話だ。
「なぜ?」の我輩の問いに、この夜「なるほど・・・」の答えが。
お二人とも「姉」がいらっしゃった。ゆえに「女性に夢も憧れも抱けません」と。
綾小路きみまろの漫談世界を、我ら浅はかな既婚者どもが結婚してようやく気づく女の理不尽さを、お二人は「姉」という身近な女の存在ですでに身にしみていて・・・真理か。姉が欲しかったとつくづく思った夜だった。

またこの夜、チャン氏「マスター、夢叶いましたね。日々晴耕雨読で」と。
これも「まぁそうかも知れぬ」とあらためて気づかされたわけだが我輩、「ナニいうてんの。店の借金抱えたまま雀の涙の国民年金暮らしやで。貧乏ゆえの晴耕雨読なんてなぁ・・・」

★で、「呑酒暦」

ここでようやく今回の「呑酒暦」の話となる。
「じゃあ、ボクたち奢りますから行きましょうよぉ、そこへ!」とチャン氏。
「そこ」というのは、その夜キムラ氏話題の、先ごろ同僚に連れられ初めて訪れたという「キャバレー」へだ。
「ムムッ」と我輩。酒席の誘いだけにはめっぽう弱いゆえ、奢られる交換条件として「書庫珈琲墨丸亭」完成の暁には飲み放題にご招待とし、いそいそと「さかもと」をあとにしたのであった・・・。

大阪で生まれた娯楽の殿堂「キャバレー」・・・青春時代にアルバイトでボーイをした阿倍野筋のキャバレー「ロイヤルガーデン」、10年ほど前に墨丸のお客さんが厨房で働いてる縁でキャバレーに初めてのお客として墨丸会員ポストマンと訪れたミナミの「ユニバース」・・・女流作家高殿円の作品のなかで「キャバレーには10年20年通おて、話して、ようやくわかる味がある。お高くとまるんが商売の新地のクラブや、若さ切り売りしとるキャバクラにはないもんがウリなんや」というくだりがあるが・・・ま、「ロイヤルガーデン」時代、ホステスさんに「気つけな。ここの女はみんな男付いとるで」といわれたことに加え、閉店後にホステスさんたちを迎えに来た「彼氏」たちの壮観ともいえる歩道の群れを目にしたことからすると、とてもじゃないけど「10年20年通おて・・・」ナニあるんや、単なるタヌキとキツネの化かしあいの場ちゃうんか・・・と。

そうして行き着いた先は、ミナミの千日前2-8-5 キャバレー「ミス大阪」
戦前からの老舗という。ゆえに名だけは知っていた。筋向かいには系列のキャバレー「ミスパール」「ザ・フレッシュ」もある。
会社休日の土曜というのに百席はあるという巨大ホールの客席、なんと満席。入店までしばし待たされたほど。「ユニバース」や京橋のキャバレー「グランシャトー」がとっくに閉店したというのにこの盛況ぶりは?
席についたハタチそこそこのホステスさんによると「在籍ホステス180名」だそうな。それだけいれば我輩好みが何人もいるんだろうなぁと店内見渡して、「?」

ボーイに問われ我輩「50代の人を」と希望のホステスさんタイプに応えやってきた熟女にその「?」を聞いてみた。
「アソコのお客さん、さっきからずっと一人やけど?」
40代ほどの男性二人それぞれがボックス席に一人ポツネンと座っているのが不思議に思えたのだ。で、「指名した人を待ってるの」との答え。
この時間帯、90分飲み放題指名付きで七千円費やし、我輩気づいてからさらに30分ほどもそれぞれたった一人。なんか哀れと思うと共に、「アホちゃうか・・・」
宝くじ当たれば毎晩通って我輩好みのホステス探そかと先ほど思いついたこと、一人座り続けている我が身想像し、あわててその夢の欲望打ち消した次第。
おまけに、カウンター越しに会話のスナックにくらべ、指名が続くのか席についたホステスさんの入れ替わりの早いこと早いこと。この夜の彼女たち、名はもちろん顔ももう覚えていぬほどの、なんか急速ベルトコンベアーに乗せられながら呑んでいたような、「10年20年通おて・・・」の意味わからぬままの、千日前2丁目の夜であった・・・。
 
”ここは京橋、あなたとわたしの架け橋。恋の船着き場のほとり、グランシャトーに、おいでまっせ あなたのお城に、おいでませ〜”

再訪率:49%

「ガジュ丸の呑酒暦」つづく

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