407「今夜の本!」5/2018のベストは?

6.2.sat/2018

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「凡作」1「駄作」。NF=ノンフィクション ※=再読作品。

01.「グレイス」萩耿介/中公文庫/3.0
02.「雨の名前」窪美澄/光文社文庫/3.5
03.「彼女がその名を知らない鳥たち」沼田まほかる/幻冬舎文庫/3.5
04.「最後の恋」作家8人の短編集/新潮文庫/3.5
05.「コニュニティ」篠田節子/集英社文庫/3.5
06.「ワン・モア」桜木紫乃/角川文庫/3.5
07.「女學校」岩井志麻子/中公文庫/1.0
08.「雨の扉」薄井ゆうじ/光文社文庫/2.0
09.「天使の屍」貫井徳郎/角川文庫/3.0
10.「赤猫異聞」浅田次郎/新潮文庫/4.0

★「期待作!」

薄井ゆうじ「雨の扉」だ。
かつて鮮烈な印象をうけた覚えのある著者の「くじらの降る森」以来、行きつけのBOOK OFFでは見かけぬ作家本ゆえようやくの2冊め。
昨今、新刊書籍を爆買いしていた頃懐かしく、美麗本を100円で入手できるBOOK OFF派となってしまった無職の我が身がこれまた少々呪わしい。
かつては自宅の隣に喫茶店と三本立映画館があったら、との妄想抱いていたものだけれど、いつしかそれらが古本屋か図書館と居酒屋に取って代わってしまっている・・・。

本書出だし、これまた印象的。
デッサン教室の講習申し込んだ少年が表に出ると、晴れ渡っていたはずなのに土砂降りの雨。所属の劇団事務所に遅れる旨の電話をと公衆電話ボックスに入る。それを見ていた教室の女性がカサを貸そうとボックス前に立つ。連絡し終わって出てきた男を見て女性はいう、「誰・・・?あなた、誰なの」。男が30代のサラリーマン風の青年に変わっていた。その後も雨が降り出すたびに・・・佐藤正午の傑作「Y」を読み始めた時と同様の、「この物語はいったい?」のゾクゾクする期待感。

が、女性週刊誌に長期連載されたというのにこの恋愛小説、コラムニスト三橋暁が絶賛解説しているのにもかかわらず、我輩にとってはファンタスティックすぎて、というより後半の展開読みきれず。どなたかに「良さ」解説してほしい読後感。

★「寸評」

今月は我輩好みの女流作家が続々。
窪美澄さん、「最後の恋」に収録の角田光代さん、篠田節子さん、桜木紫乃さんだ。あいかわらずハズレのない良作揃い。が、桜木さん「ワン・モア」のぞいては残念ながら物足りぬ”短編”ばかり。

日本ホラー小説大賞「ぼっけえ、きょうてえ」の岩井志麻子「女學校」は、内容からいえば、反して長編でなく短編で充分かとの冗漫な展開。

沼田まほかるさんは湊かなえ作品同様、面白本なんだけど心に残らぬのはなぜだろと毎回思ってしまう。もう何冊か読めばその理由も分かるのだろうか?何冊も読みたくはないけれど。作者名も今回ようやく「まほかる」さんなんだと覚えた次第。忘れるかも程度の認識だけど。その「彼女がその名を知らない鳥たち」は阿部サダヲで映画化されている。サダヲさんならば観てみようか、だ。

★「今夜の名言!」

「あっしァこう思う。人間はみんな神さん仏さんの子供なんだから、あれこれお願いするのは親不孝です。てめえが精一杯まっとうに生きりゃ、それが何よりの親孝行じゃござんせんか」

(「赤猫異聞」より。濡れ衣着せられ死罪を申し渡された博徒繁松の弁)

★「ガジュ丸賞!」

最近読んだ浅田次郎「五郎治殿始末」は、幕末から明治となったそのはざまで、名もなき武士たちはどう生きたかを描いた秀作短編集だった。本書も、明治元年、幕府の支配制度がかろうじて残る江戸伝馬町牢屋敷が舞台という特異な題材。江戸の大火が迫り解き放たれた四百人もの囚人たち。うち三人の重罪人男女の行方が描かれる。牢屋敷や牢役人のことなども目からウロコの時代考証のもとに書き込まれ、それだけでも手に取る価値のある、浅田次郎「赤猫異聞」!

「今夜の本!」5/2018 完

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