413「今夜の本!」6 /2018

7.3.tue/2018

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「凡作」1「駄作」。NF=ノンフィクションetc ※=再読作品。

01.「セーラ号の謎 漂流者」折原一/角川文庫/3.0
02.「関東大震災 朝鮮人虐殺の真実」工藤美代子/産経新聞出版/3.5 NF
03.「日本 残酷写真史」下川耿史/作品社/3.5 NF
04.「ミスター・メルセデス 上下」スティーブン・キング/文藝春秋/3.0 「エドガー賞最優秀長編」
05.「ドクター・スリープ 上下」スティーブン・キング/文藝春秋/3.0
06.「緑の毒」桐野夏生/角川文庫/3.5
07.「スーチー女史は善人か」高山正之/新潮文庫/3.5 NF
08.「主婦と恋愛」藤野千夜/小学館/3.0

★「期待作!」

以前、天牛書店の買取担当者が「若者の本離れで売れません、特に翻訳本が」とのことだったけれど、BOOK OFFに並ぶ翻訳本も毎回同じ見飽きた旧作ばかり。で、我輩この数年待望のS・キング新作、ようやく図書館での(地元、新刊書店でも見かけずだった)「ドクター・メルセデス」
・・・著者の秀作「クリスティーン」同様、”呪われた車”主題のモダン・ホラーかと思いきや、著者初のこれはミステリーかつエドガー賞最優秀長編賞作とか。
狂気の殺戮犯を退職刑事が追う展開。で、つくづく思った、ミステリーは好みじゃないと。たぶんこの分野、なぜ犯行に及んだのかという筋立ての、犯人側から描いた作品のほうが我輩好みなんだと(追われるタイプなんだろうな、我輩)。そういえば警察や私立探偵モノのドラマも小説もとんとご無沙汰・・・。

けれどもつづく著者の「ドクター・スリープ」は、雪に閉ざされ休館となったホテルの管理人一家の末路を描いた秀作「シャイニング」その主人公の、なんと30数年後を描いたホラー。で、これも著者初の試みとか。「続編」かつ「シャイニング」は我輩好みではなかったけれど、あの大作の?と、期待。
「ドクター・メルセデス」と同じ上下巻の大作単行本。
かつてキングの超大作はその大長編にのめり込め、長ければ長いほど興味が湧いたものだけれどもこの2作、返却日までに読了可かよと危惧するほど、その異様な長さが恨めしく思える展開。
本書は、真に迫る恐怖感味わえぬまま。唯一救いは「ドクター・メルセデス」終章の畳み掛けるようなサスペンス感か。ま、全盛期のキング作品群に巡り会えただけでも我輩の人生シアワセだったとしよう・・・。

★「寸評」

「流言飛語により自警団や治安部隊に虐殺された」と、その人数にも二千六百人、六千四百人、二万三千人と諸説ある関東大震災時の朝鮮人虐殺事件。近現代史家や大江健三郎、松本清張、吉村昭、佐野眞一ら作家もその「流言飛語」「被害人数」に疑問の声もあげず作品に取り込み今に至っているのはなぜなのか。社会主義者と不逞朝鮮人によるテロの事実が流言飛語という言葉に転じた疑問、当時の在日朝鮮人の人数から判断すると震災で生き残った朝鮮人はいない事になるという単純な疑問などから著者はその謎に迫る「関東大震災 朝鮮人虐殺の真実」は、目からウロコの力作。膨大な当時の資料からの転用文が少々読みづらいけど・・・。

「日本 残酷写真史」という題名からキワモノ的な内容にも思えるが、日本で写真撮影され始めた幕末から戦後までの数々の悲惨・残酷な写真を元に、残虐行為を覆い隠し健全さを前面にだす現代の風潮に解説を通じて疑問を呈している納得本。

週刊新潮でまず目を通すのは、手に取るきっかけとなったその号のトピックス。次いで連載のコラム「変見自在」。ジャーナリスト高山正之さんの辛口連載コラムだ。主に中国、韓国、白人国家そして朝日新聞の偽善を白日のもとに晒す目からウロコの毎回のそれの我輩、ファン。その一年間の連載まとめた「スーチー女史は善人か」の表題の章でも、彼女を「後ろで英国が舌なめずりしているのに気づかぬ性悪女」とバッサリ。痛快だ。

姉弟が現実と少し違う異世界に迷い込んでしまい、母親のいる世界に戻ろうと悪戦苦闘するファンタジー小説「ルート225」は映画化作品の面白さもあってぜひ他の小説もと熱望しつつ十数年、書店で見いだせぬままの藤野千夜作品。
なんだ、図書館にたんまりあるではないか。芥川賞作家とも知った。その彼女の一冊「主婦と恋愛」。奇しくも現在同様、日本勢活躍のサッカーW杯の時が舞台。平凡な家庭の主婦の恋愛未満の日常が描かれている。淡々と。そしてその「感情」も未消化のままに終わり、ああ、ブンガクなんだなと・・・ただし、面白くないわけでもないという、中途半端な読後感。

★「今夜の名言!」

「だれかを好きにならないまま、その相手を愛した経験があって?」

(S・キング「ミスター・メルセデス 」より。このあとのセリフで「なるほど」なんだけど、長すぎてカット)

「年をとることの利点は、若死にする心配が不要になることだ」

(S・キング「ドクター・スリープ」より)

「ニューズウィーク日本版(5/15) 特集『”日本すごい”に異議あり!』のなかで、ジャーナリスト、コリン・ジョイスの村上春樹批判「あんなバカバカしくて不合理な話を、この分だと結末もまともでないと思いながら何百ページも読む気にはならない」に、月刊Hanada編集長花田紀凱氏「同感」と。我も「同感!」

★「ガジュ丸賞!」

月末間近となっても該当作なく、焦ったところに「緑の毒」が。
39歳の開業医の男。妻は勤務医。一見満ち足りているかにみえる男は妻への嫉妬心、他の医師たちへのコンプレックスから、インモラルな習癖で自滅の道へと陥ってゆく・・・。
「主婦と恋愛」と相反するエンターテイメント作ながら、両作ともに一日で読了。

「今夜の本!」6/2018 完

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