418「今夜の本!」7 /2018のベストは?

8.3.fri/2018

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「凡作」1「駄作」。NF=ノンフィクションetc ※=再読作品。

01.「他人事」平山夢明/集英社文庫/3.5
02.「戦争小説集 永遠の夏」末國善巳 編/実業之日本社文庫/3.5
03.「はじめまして、本棚荘」紺野キリフキ/MF文庫/3.5
04.「猛き海狼 上下」チャールズ・マケイン/新潮文庫/3.5
05.「千の脚を持つ男 怪物ホラー傑作選」中村融 編/創元推理文庫/3.5
06.「デュ・モーリア傑作集 いま見てはいけない」ダフネ・デュ・モーリア/創元推理文庫/3.5
07.「不便ですてきな江戸の町」永井義男/柏書房/4.0 NF

★「期待作!」

熱烈な洋画ファンだった高校時代にテレビで観た、ヒッチコックのスリラー映画「レベッカ」。続く同監督のパニック映画「鳥」は、ともに我が名画50選に入る作品。そして両作とも英国女流作家ダフネ・デュ・モーリアの'30年代、'50年代の小説が原作。で、その映画の面白さから彼女の小説を読み漁った時期が・・・そして今回、ひさしぶりに彼女の作品を手に。'07年翻訳の短編5作「デュ・モーリア傑作集 いま見てはいけない」だ。これは期待せずにはおられない。

驚いたのは作中、コンピューター駆使する描写があったこと。一瞬、「?」
だってモノクロ映画時代の「レベッカ」原作者がコンピュータ時代に至るまで作品書き続けていたなんて思わなかったもの・・・まだ未読の作品あるならばぜひ読みたい作家。'66〜'71の作品集だけど、古臭さ皆無(5作とも中編といってもよいほどの長さ。好みとしてはもう少し短編化されていたほうがより読みやすかったかな)。

★「寸評」

戦争知らぬ世代の新しい戦争小説家といわれる古処誠二('70年生)、そして柴田哲孝('57年生)と目取真俊('60年生)3作家以外は戦中世代という計14作の戦記を、ノモンハン事件から終戦まで時系列に力作を編纂した短編集「永遠の夏」。'68年生まれの末國さんのその編纂力には脱帽。
そして末國さんが、先の大戦評価をアジアを欧米の植民地支配から解放する道筋を作ったとする肯定派と、アジアを蹂躙した侵略戦争だったとする否定派の議論について、双方とも実際の戦争を知らず、観念だけで戦争を語ろうとしているので、どこか机上の空論のように思えてならないとの指摘。我輩やや肯定派ながらも、それぞれの論者が戦後生まれの方々ばかりゆえか納得しきれぬ点指摘してくれたようで・・・。

編纂力でいえば、初訳ふくめ海外作家10編の「千の脚を持つ男」編者中村融さんの編集力も素晴らしいと思う。お二人とも膨大な量の作品を読み込んでいるんだろうな。両者の編集本には注目かも。

「本棚」の文字に惹かれての「はじめまして、本棚荘」冒頭記述、主人公が「トゲを抜く仕事」云々で、「なんやねん、この話」と自分好みじゃない予感。
が、「トゲ」というのが体に生える「草の芽」であり、本棚荘住人も非現実的な、猫遣いの中年ダメ男、廊下や玄関先ででも寝てしまう眠り姫的女子大生、植木鉢抱えた捨てられたサラリーマンといった奇妙な、でも妙に憎めぬ人々のことが綴られている。青春時代に読んだ、肺の中に蓮の蕾ができる病に罹った魅力的なヒロイン登場させた作家ボリス・ヴィアンや安部公房の作品を連想。こんな発想される寡作らしいこの作者ってどんな方だろうと、奇妙ながら忘れられぬ作品、作家に。

反面、理解不能な(したくもないし周囲にいて欲しくない)人間描く短編集「他人事」、これは忘れたい内容本(こんなのが好きという方ってどんな人なんだろ。でも我輩、つい読みふけってしまってた・・・)。

'80年代前半の草稿以後、練りに練られての'09年本書がデビュー作という「猛き海狼」は異色作。
というのも、戦後生まれのアメリカ人による第二次大戦時のドイツ海軍興亡が緻密に描かれているので。かつての傑作戦記小説、アリステア・マクリーン「女王陛下のユリシーズ号」、ジャック・ヒギンズ「鷲は舞い降りた」作者はともに1920年代生まれに対し、戦後'55年生まれの作者が描く戦艦シュペー号の、そしてUボート114号の最後を描ききっている。果たして主人公マクシミリアン・ブレーケンドルフの最後は?(でもこういう作品、まぁ女性向きではないでしょうね)。

ただ前述の作家古処誠二さん同様、読めるけれど戦争知らぬ世代が・・・という我が偏見に対し、じゃあ時代小説はどうなんだと自問自答・・・が、大戦物は各世代での作品比較ができ、作品の根底にあるリアルな体験有る無しでのギャップのようなものが常にチラついてしまっている・・・。

★「今夜の名言!」

「この『勇』という字はじゃな、オトコという字の上に、マの字をのせて出来となる。即ちじゃなマオトコをするには勇気が必要であるちう・・・」
(徳川夢声「連鎖反応 ヒロシマ・ユモレスク」(「永遠の夏」収録)「なぁるほど」である)。

★「ガジュ丸賞!」

副題が’時空を超えて江戸暮らし’の「不便ですてきな江戸の町」が今月のオススメ。

出版会社の若手社員が偶然見つけた江戸時代に通じるタイムトンネル。で、知人の元大学教授、日本近世史研究者の老人とふたり、江戸の町を探訪してみることに・・・。

作者は小説という手法を使って江戸庶民の日常を事細かに記述。
展開に応じて当時の絵草紙を解説付きで随所に挿入し、小説というよりまるで見知らぬ世界の紀行文読んでいるよう(で、NFの範疇とした)。
旅立つに際し、髷が結えないので頭を剃り上げ、医者と弟子に扮装。コインショップで大枚はたいて古銭かき集め、現地では珍しくもない浮世絵買って投じた大金今後回収しようと、いざ文政2年(1825)の江戸へ・・・。

落語の江戸弁を使おうとする落語好き若手社員に対し先生は、そんな言葉は通じないと、実際の喋り言葉を披露。だけど、我輩もソレはもうちんぷんかんぷんの言葉。不味い蕎麦、暗くて湯の汚れもわからぬ銭湯、井戸水は池や川から引き込んだ不衛生な水。その井戸も便所、ゴミ捨て場と同じ敷地に。
で、江戸での疾病上位を腹痛関係が占め、100%性病に罹患という吉原遊女の関係もあってか性病は七位(一位は眼病)など、目からウロコの生活描写満載。

近年「江戸は豊かで、自由で、清潔だった」と美化する傾向があるが、事実は「貧しく、不便で、不潔」だった。が、それを上まわる魅力に満ちていると著者。一読、まさに!

「今夜の本!」7/2018 完

<戻る>