427「24時間戦えますか!」第五話

9.3.mon/2018

「では次の課題に移るッ。今述べた組織の理想的な姿とはお前たちにとってどういうものか、その協議に入れッ」

★休めず・・・

第一日目の研修はこうして休む間もなく延々と続いた・・・朝まで。
宴会どころか我が班が夕食摂れたのは午前の4時すぎ。そしての起床は午前5時。

いま振り返ると二問目の「組織」以降の数々の課題は?食事の献立は?トイレは?研修は何日間?などなど、研修内容ふくめ最終段階までの記憶がすっぽり抜け落ちてしまっている・・・。
覚えているのは研修中、眠気でウトウトした正座の隊員に係長の参謀、容赦なく竹刀振るって叩き起こしている鬼の姿・・・。
が終盤、参謀自身も立ったままウトウトしているのを我輩つい垣間見てしまったけど・・・。
スゴイといまでも思えるのは、我らと同じスケジュールこなしておられるというのに、初日と変わらずの指導者である隊長のバイタリティ溢れんばかりの指導ぺース・・・。

★嗚咽・・・

研修最終日、隊長がA石油の中年課長を壇上に呼び出した。
そして課長に対し、「A石油入社時のことをここで全員に述べよ」と。
課長が話し始めた。
「・・・わ、わたくしが、こ、このA石油に採用し、していただき、は、初めての、しゅ、出社日の朝でした・・・」
話し始めてすぐその課長、なぜかの涙声。
で、聞きはじめた隊員全員なぜかのもらい泣きし始め・・・「に、二階でわ、わたくしが寝ていると、あ、足の悪い母親が、ま、まな板で、ボ、ボクの弁当惣菜刻んでる、オ、音がして・・・」
全隊員嗚咽。我輩も・・・。

その課長の、いま思えばなんで泣くん?と思えるようなお話終わったあと、「最後のソレ」が待ち構えていた・・・。
ソレがなければ我輩の人生、違っていたかもしれぬ。
バイタリティあふれる隊長信奉する腹心の森蘭丸的部下として、低周波治療器やつづく新開発商品売りまくっていたかもしれぬ。ミナミのあの高級クラブで「この店は自由に使えるんやで」と新入社員にささやいていたかもしれぬ・・・のに、あの隊長ともあろうお人がミス?というより、そのことから波及するコトになぜ思い至らなかったのか、それとも我らを単に見くびっていたのだろうかと、いまも疑問・・・。

★最後のソレ・・

そう、その課長のお涙頂戴話終了後、50数名のA石油会社の人たち全員同じ涙し、職歴年齢役職の垣根完全に取り払われ、まさに一心同体となった研修会場大広間。その異様ともいえる嗚咽の空間に隊長の声が再度響き渡った・・・。

「この研修会最後の時が来たッ。いまここに、諸君の家族からの電報が届いておるッ。激励の電報だッ。名前を呼ばれた隊員は前へ」
家族という言葉耳にしただけで、またもや隊員、すすり泣き・・・。

「S隊員ッ、前へッ」
はっ?また、わし?・・・涙ぬぐいつつ壇上の隊長前に直立不動。
隊長「S隊員の自宅はどの方角かッ」
我輩「はッ、あちらの方だと思いますッ」とその方向に顔を向けた(今思うと完全に真逆か・・・)。
隊長「よしッ。ではあの窓のところまでゆき、電文を大声で読みあげろッ。そして家族に感謝の言葉を述べてこいッ」
我輩「はッ!」

・・・窓辺に行った。電報を開いた。声に出して、読んだ。
「お父さん、研修ご苦労さまです。皆で応援していますから最後まで頑張って下さい」
我輩、窓の外、彼方の山々に向かって「ありがとうございましたぁ!」と叫び、深々と頭を下げ・・・ふと気づいた。

「わし、犬鳴山に研修で出かけるなんてなんもいわんと出てきたのに・・・?」
自分の座っていた場所に行き着く前に悟った。
「なんや、こんな仕組みやったんか・・・」

★洗脳・・・

睡眠不足、空腹、休む間もない課題処理。間違えば大声で怒鳴られ、竹刀で叩かれもしての過酷な時間のなかに唯一やさしい単語「家族」持ち出し、わざわざ家族に依頼しての「電報」小道具に使っての、その涙で作り上げただけの、これは偽りの一心同体感。
意識朦朧のなか、有益となるやもしれぬ課題の結論なんて記憶に留めることさえできぬ思考の低下・・・これが謳い上げる管理職養成研修ならば、中身のない一時的な一心同体感生み出しているだけではないか・・・。

・・・奈良セールスの前に、大阪市内のガソリンスタンドを車で訪問して回り、O社主催のプレゼントキャンペーンポスターの店頭掲示依頼をする実習もあった。
スタンドにとってはなんの損もないそのキャンペーンに(後日、スタンド会社は研修持ちかけられるのかも)、大概のスタンドは心良くポスター貼らせてくれたけれど、なかには「は?O社か。なら、うちは結構」とけんもほろろに断るところもあって・・・思うにそういうスタンドは、単なる「洗脳低レベル教育」と経験上悟っていたのではないか。

★幕が降りた

翌日、我ら三人への辞令が交付された。
「幹部候補生Sッ。貴君を管理職養成研修会担当、[参謀]を命ずッ」
・・・翌日、辞表を郵送した。

「24時間戦えますか!」最終回へとつづく

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