429「今夜の本!」8/2018

9.9.sun/2018

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「凡作」1「駄作」。NF=ノンフィクション ※=再読作品。

01.「アニバーサリー」窪美澄/新潮文庫/3.5
02.「脊梁山脈」乙川優三郎/新潮文庫/3.5 [大仏次郎賞]
03.「再会」横関大/講談社文庫/3.0 [江戸川乱歩賞]
04.「あなたの本」誉田哲也/中公文庫/3.5
05.「東京城残影」平山壽三郎/講談社文庫/4.0 [時代小説大賞]
06.「遠くでずっとそばにいる」狗飼恭子/幻冬舎文庫/3.5
07.「この女」森絵都/文春文庫/4.0
08.「14歳の本棚 初恋友情編」北上次郎編/新潮文庫/3.5

★「期待作!」

時代小説作家乙川優三郎、初の現代長編という「脊梁山脈」だ。
主人公の復員兵が列車で知り合った男。その男と再会しようと消息訪ねると木地師であることを知る。
俗世間から離れ、山々を渡り歩きながら独自の文化を築いていた木地師(ろくろなどを使って木材から盆や椀などの日用器物を作る人)とは?
こういう知らぬ世界を知らしめてくれる物語には毎度のことながら感服。
ただ、その漂白の民の研究に没頭する合間の二人の女性に対する主人公、いかに文学的に描かれようとも凡人からみると「二股かけとるだけやん?」
そしての終章、木地師発祥の古代日本の記述となるともう凡人には教科書読んでるようで数ページ飛ばし読み。ゆえに評価ワンランク下落・・・。

★「寸評!」

小学校卒業の際、偶然手に入れた拳銃をタイムカプセルに封じ込めた幼なじみ四人組。23年後、その拳銃を掘り出した人物がいた・・・過去から現代につながる事件の真相は?という「再会」は、今月唯一のミステリー。
非ミステリーファンゆえの低評価だけれど、今月は本書ふくめ物語世界にどっぷり浸れる作品ばかり。

特に、今まで読んだ作品が印象に残らなかった森絵都。
彼女の「この女」によって作品群読み直してみたくなった。
三島由紀夫「仮面の告白(抄)」ふくむ短編8作「14歳の本棚」で初めてその名を知った笹生陽子(知らないはず。児童文学作家)、他作品も読んでみたし。

★「今夜の名言!」

「人間は、嫌なことを片っ端から忘れていかなければ、とうてい生きてはいけない。でもな、そうした人生の果ての幸福なんて、信じてはならないと俺は思う」

(以前紹介の浅田次郎「降霊会の夜」より。この言葉、記載してなかったかもで)。

★「ガジュ丸賞!」

函館戦で敗れ、明治新政府に抑留されていた旧幕臣向井信一郎。東京(とうけい)と名を変えたかつての江戸に住む新妻のもとに戻ったのは戦から2年5ヶ月後のこと。しかしその夜、夕餉の支度を終えた妻のお篠は大川へ身を投げる・・・。
夫が留守の間に何があったのか?江戸から東京へ、混乱の時代に翻弄される名もなき人々の過酷な運命劇「東京城残影」が今月の「ガジュ丸賞!」

で、「これぞ小説!」と本書のこと思っていたら、著者は1933年生まれ。かつ65歳の本書デビュー作で時代小説大賞受賞作。さすがこの年代作家にふさわしい力作。
'99年刊行時に本書単行本買ったまま。で、図書館無料リサイクルコーナーで見つけた文庫版なら寝ながらでも読めるだろうと、20年も経って初めてページを開いたわけ・・・当時、「面白そう」と買って読まぬままのその他蔵書存在思うと、これにはゾッ。死ぬまでに読みきれないだろうから。亡き祖父が死ぬ直前につぶやいたという「残念」という言葉、我もなのかもしれない・・・。

「今夜の本!」8/2018 完

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