434「今夜の本!」9/2018のベストは?

10.9.tue/2018

★「今夜の本!」

ガジュ丸評価基準。
5「傑作」4「秀作」3.5「佳作」3「普通」2「凡作」1「駄作」。NF=ノンフィクションetc ※=再読作品。

01.「トリップ」角田光代/光文社文庫/3.5
02.「太陽と毒ぐも」角田光代/文春文庫/4.0
03.「月と雷」角田光代/中公文庫/3.5
04.「こちらあみ子」今村夏子/ちくま文庫/3.5 [太宰治賞etc]
05.「アンボス・ムンドス」桐野夏生/文春文庫/3.5
06.「強運の持ち主」瀬尾まいこ/文春文庫/3.0
07.「夕映え天使」浅田次郎/新潮文庫/3.0

★「寸評」

今村夏子「こちらあみ子」の、風変わりな少女の日常描いた奇妙な良さは読んでみなければわからないかもしれない、忘れがたい作品。この作品のみならば評価は4。収録の他2作のぞき再読したいほど。太宰治賞と共に三島由紀夫賞受賞の著者2011年のデビュー作。

★「今夜の名言!」

「私はグラスの中身をあおる。熱い液体が喉をすべりおちる。その感触が、涙が頬をつたうのににているとふと思う。泣いているんじゃないかと手の甲で頬をこするが、頬は濡れてはいなかった」

(同棲相手とうまくいかぬヒロインが行きつけのバーでバーボンあおりながらの心情。たいした言葉じゃないけれど、「うんうん、わかるなぁ」と。「太陽と毒ぐも」より)

★「ガジュ丸賞!」

傑作「八日目の蝉」発端で彼女の主な作品読破したつもりでいたけれど、「まだまだこんな秀作が」の今回の角田光代さん作品群。そのなかでの短編集「太陽と毒ぐも」が今月のガジュマル賞。

短編集があまり好きでない我輩(一編でもつまらぬ作品に出くわすとその一冊自体が低評価になってしまうゆえ。今月は1と6のみ長編だ)、短編自体は嫌いではない。で、長らく「あの短編の作家は誰だったろう」と思い悩むほどの傑作もあるわけで。
その傑作というのは、熱病に罹ったカミソリ研ぎ師の主人が客のひげを剃っているうち次第に錯乱状態に陥り、挙句の果てに剃刀の扱い誤り客の喉を切り裂いてしまうというもの。その結末に至る描写がまるで自分が理髪店の椅子に座っているような、主人と同化しているような心持ちになるほどのリアル感・・・以来、大衆理容に出かけるたびに「ああ、安全カミソリで充分やのに」と思いつつ「あのぅ、軽くでいいですから」なんて注文付けてしまったりしている。

今回、「太陽と毒ぐも」の解説ページでその短編のことが取り上げられいた。志賀直哉の「剃刀」だった。
そしてこの「太陽と毒ぐも」は、もう一編の忘れられぬ短編「38階の黄泉の国」(篠田節子)を彷彿とさせてもくれた。
「38階」は、不倫男女がホテルの38階で密会を重ねている。女は、24時間ずっとその男といたいと願う。場面変わってその二人、「あの世」の38階にいる。そこでは願い通り二人で過ごす時間がえんえんと続き・・・次第に魅力的だったはずの男の八重歯が乱ぐい歯にすぎないと気づいたりと、男のアラが目につきだして・・・というお話。

話が長くなったけれど、「太陽と毒ぐも」はそんな、共に暮らし始めて気づく相方の負の習癖に悩まされる、これは現実生活のお話集。よくもまぁこれほどのケース思いつくものだの11編。かつ、同棲が今ほどではなかった我が青春時代からすると(上村一夫「同棲時代」が青年マンガ週刊誌に連載され始めた頃だ)すべてが同棲相手のお話というのが時代を感じさせもする・・・。

で、角田さんは連作小説「トリップ」でも主人公にこう言わせている。
「交際して一緒に暮らして、長いこと一緒にいれば、最高と思った相手だって、次々と引き算されて、いつか限りなくゼロかゼロ以下になっていく」と。
ゼロかゼロ以下というのもスゴイけれど、恋は精神病の一種だとは思うけれど、ともにいれば相手が同性、肉親でも引き算の面はあるだろうし、妥協は必要な、生きるすべだろう。またおのれ自身をも常に客観視せねばならぬだろう。が、彼らの顛末は・・・。

「今夜の本!」9/2018 完

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